依存、束縛


依存、異存の続編〈出会い〉


名前と出会ったのは初仕事の時だ。
夜、大きな屋敷に忍び込み人を殺していると、その亡骸に残る血を貪っている名前がいた。
大きな瞳は血の色に染まり、口元から胸元までは血でべっとりで。
それに相反するように青白い肌に、体が震えた。
美しすぎることに恐怖を抱いた。
彼女は俺と目が合うと逃げるように飛び退く。
だけど、俺はそんな彼女に声を掛けていた。


「大丈夫、俺は敵じゃないよ」


あの時確かにそう言った。
名前からして人間は餌。
だから、例え俺が敵であろうがなかろうが関係無かったのだろうけど。


『…私が怖くないの?』


名前は声を掛けた俺を見て不思議そうな顔を向ける。
名前の問い掛けに肯けば、名前は自分の名前を名乗って一言。


『でも、私とあなたじゃ友達にはなれないわよ』


そう言った。
それに対して別に友達が欲しいわけじゃない、と答えたような気がする。
すると、再びきょとんとした名前が可笑しそうに笑ったのだけは鮮明に覚えてる。

吸血鬼である名前と出会ってからというもの、俺は毎日のように名前に会いに行った。
あまり遠くまで移動できないため、近場で狩りを済ませていた名前だけど、俺と出会ってからは俺の仕事に着いて来ることで俺の仕事を手伝いながら餌にありつくようになった。
名前の体の年齢的には16歳くらいのままで止まっている、だから遠くまで行けないのだ。
それから、名前は招かれた家でないと入れない。
招かれずに入れば彼女は全身から血を吹き出すという。
吸血鬼には色々面倒な決まりがあって、その為更に狩りの場は限られるらしい。

そんな何気ないある日、彼女が人間の男に恋をした。
いつも名前は遠くから見守るだけで、何かがあればこっそり助けてやっている。
そんな姿に胸がちくりとした気がした。
そんな日が何年も何年も続き、俺は相変わらず名前の傍にいる。


「何年も何年も楽しい?」

『うーん、楽しいっていうか、生き甲斐かしら』


そう言って悲しそうに笑う名前に胸が締めつけられる気がする。
いつも名前は悲しそうに笑う。
長年生き続けたせいか、誰かを傍に置くのも好まない。
それでも俺は名前の傍に居続けた。
初めは傍に居るのも名前が躊躇ってたけど、それでも居続けた。

だけど、俺が初めて人間らしい感情を持ってしまった。
いや、本当はずっと持ってたんだと思う。
それが表立って出たのが俺が名前の外見年齢に追い付いた時。
いつものように名前が恋した男を見ていた。
そいつと一度だけ、夜に2人で話しているところを見掛けたんだったと思う。
仲良さげに、恋人みたいに甘い雰囲気で話す2人にドロドロした感情が溢れだして自分ではどうしようもなくて。
気付いたら名前の所へは行かず、その日は家にいた。

―その日の夜、毎日通う俺が来ない事を心配した名前がお腹を空かせたままなのにも関わらず俺の部屋の窓を叩いた。
俺は無言で窓を開ける。


『イルミ、今日はどうしたの?』


きょとんとした顔を傾げて少しだけ心配そうに眉根を寄せる名前。
それがまた苛立ちに似たものを生み出して冷たくする。


「別に、何もないよ」

『…入っていい?』


何かを察した名前が聞くのをを止めてそう言う。
だけど俺の苛立ちは健在で。


「勝手に入ったらいいだろ」


そう言い返す。
すると、無言で足を部屋に踏み入れた名前の体からみるみるうちに血が吹き出してくる。
じわじわと浮かんできて彼女の服を赤く染めるその様子に半ば叫んだ。


「入っていいよ!」


慌てて許可をし、名前を抱きしめる。
すると、するりと名前の手が俺の頬に触れた。


『何があったのかは分からないけど、ごめんね』


そしてふにゃりと情けなく笑う。


「俺こそごめん。何で入ったの、こうなること分かってただろ」

『イルミは大切な人だから。イルミのために死ぬなら本望』


尚も笑う名前に申し訳ないと思ったと同時に、ずっと傍にいたいと思った。
名前が誰を好きであろうが別に構わない。
それでも俺は………、名前が好きだ。
名前には俺がいないと生きていけない、それだけでいい。
俺は名前に口付けた。


「狩りに行こっか。お腹すいただろ」

『うん!』


これからもこうして名前の傍に居られればそれだけでいい。
俺は暗殺者、感情を持たない人形だから、それでいい。




依存、束縛


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